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西新地バー物語 3 裸の王様

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隣の席の男は得意げに語っていた。
「やっぱりバーボンよりウィスキーだよなぁ、ねぇ」
にこりと笑うバーテン、連れの女は男の話を興味深そうに聞いていた。

「タンカレーのソーダ割りをお願いします」
間を割って私が注文すると、
今度はその男、ジンについてあらんばかりの知識を披露し始めたのだった。
男という生き物は女性を前にすると、とかくこういったものなのだろう。

タンブラーにライム、氷、ジンと小気味のよいテンポで仕上げていくその様は、ひと目見て技術の高さがうかがい知れる。
「そうじっくり見られるとなんだか緊張しますね」
と彼はうそぶいた。

5年ぶりに訪ねたこの店には、かつて顔馴染みだったバーテンダーの姿はみえなかった。
隣の男はまだしゃべっている。
私なら、なるべく店の人間に対して、酒の知識などは広げないし、お店の在り方やラインナップについては、求められても意見をしないだろう。
「いい店に出会うにはいいお客であること」、偉そうかもしれないが私の自論だ。

間違いだらけの男の話を、バーテンは上手に聞いている。
決してこの「裸の王様」をコケにしたりはしない。

今よりずっと若い頃、
「お客さん、バーボンもウィスキーもどっちもウィスキーですよ。正しくは…」
などと、お客をやりこめていたことを思い出し、私はなんだか恥ずかしい気持ちになった。

しばらくすると、隣の席の「王様」はすっかりご機嫌で、店を後にしていった。
友人と別れた後、一人立ち寄ったバー「R」は今年で22年目になるそうだ。
彼の高い技術と知識はもちろんのこと、バーテンダーとしての立ち居振る舞いには魅せるものがあった。

「一流は、二流にも三流にもなれる」

知っているからこそ、知らないふりができる。