「東大卒ならニートでもいい」
思わずグラスにウィスキーを注ぎすぎた。
そう言い放った彼女は30歳、彼女の理想の男性は兎にも角にも学歴なんだそう。
理屈はこうだ、学歴がいい=頭がいい確率が高い=頭の良い子供が生まれる確率が高い→いい会社に就職できる…だそうな。
彼女はカウンターに「お一人様」、少し離れた席には常連の男性客が一人、苦笑いを浮かべながらも聞き耳を立てている様子だ。
続けて彼女はこういった
「どこかにいい人いませんかねぇ〜」…と。
彼女が店に出入りするようになって、もう3年は経つだろうか。すらりとした背の高い美人で頭脳明晰。男性ならば多くの人が好感をもつタイプである。
「このあいだ一緒に来ていた人はどうなの?感じのいいヒトだったけど」 私が彼女に問いかけると
「あぁ、あの人いいひとなんだけど…」
「けど??」
「背が…ねぇ。わたしより低かったでしょ?それってねぇ」
世の男性たちからの罵声が聞こえてきそうなフレーズに、私と常連の男性は思わず目と目で会話をした。
「マスター、角のダブルで」
常連男性の2杯目はダブルのロックだった。
やれやれ、返す言葉が見当たらない。
確かなのは、私にその資格がないということと、他にお客がいなくて良かったことである。
「私はいつもの芋焼酎をロックでください!」
彼女の好みは宮崎産の「山ねこ」という芋焼酎。ボトルのデザインが可愛らしく女性に人気がある。
一口飲んで一言
「私って男見る目がないんですよねぇ」
私は押し黙った。
「見る目がないのではなく、見るところを間違ってるのでは?」 なんてセリフはこの場においては、「言わずもがな」なのだろう。
焼酎を一気に飲みほすと、彼女は慌ただしく店を出て行った。何でも今から料理教室に行くらしい…。
私と常連の男性は二人きりになった。
男性は、
「俺なんかK大学だしなぁ、資格なしだよね」
そう言いながら、空のグラスを私に差し出した。
「マスター、角のダブル濃い目で」
3杯目の注文はダブルの濃い目…?
「ダブルの濃い目はトリプルってことですか?先輩」
某大手代理店のお偉いさんは、きょとんとした顔で私を見た。
しかし、私の言葉にすぐに察しがついたようだ。
言わずもがな、私達は同窓だったのである。
『言わずもがな』 広辞苑によると、言うべきでないこと、言うまでもないこと、とある。
バーテンダーにとっては最も心したい一言であろう。