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西新地バー物語 1 会うが別れのはじまり

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「今日はお祝いだからシャンパンをあけてもらおうかな」
部下の女性を従えたその男性は言った。
男性がオーダーしたのは、スペインのスパークリングワインで‘フレシネ コルドンネグロ’だった。
早く何かを話したそう目をして、今思えばなんとなくいつもとは様子が違っていた。

もうどれくらいになるだろうか、大手のビールメーカーに勤めているその方は開店以来のお客さんだ。年齢は40代で、私とは10歳ほどはなれている。

「全ちゃん、俺ついに転勤になっちゃったよ。東京に。」
正直絶句した。

しかし、よく聞けば大変おめでたいお話なのである。そうその方の会社人としての未来を考えれば…。
私は何か一言云わなきゃ、気の利いたセリフを云わなきゃ…今日はお祝いなのだから。

「こんな水割りだしてちゃだめだよ!」

出会ってからしばらくたった頃、そう言われた。私もこの世界で10年以上になるが、真っ向そう言われたのは修行時代以来はじめての事だった。
クレームとは誰もが嫌なものだろう、私も例外無くその一人だ。しかしその結末は私を意外な結果へと導いた。
そうその人は来る日も来る日も私のもとへと足を運び、水割りを飲むのである。
負けたくない、納得してもらいたい、そんな思いで忙しい合間をみては研究をした。

昔、私を熱心に指導してくれた方を思い出す。

「モノ作りは心、魂をこめて臨みなさい」

独立してからというもの、私にお説教してくれる人は少なくなった。何度も何度も水割りを作った、その事を思い出しながら…。
シャンパンを飲み終えたころだった。その人は笑顔でこう言った。

「全ちゃん、新地でNO1の水割り お願いするよ」

正直涙がこぼれ落ちそうだった。
続けて
「ホントここんちの水割りは美味いんだよ」
と。いつの頃かは忘れたが、決まり文句のようにこう言ってくれた。

「会うが別れの始まり」
せつなかった。勤め人の定めだよ、そうも言った。私は胸がいっぱいになった。
別れ際、店先で涙がこぼれ落ちた、その人もまた…。