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神戸バー物語 3 受け継がれたグラス

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まだ来客もない開けたばかりの静かなバーで、バーテンダーはいつものように静かにグラスを磨いていた。
ただいつもと少し違った事と言えば、今日はどうしても磨かなければいけないグラスがひとつだけあったことだ。
そのグラスというのは28年前に、ある常連客が持ち込んだ思い出のグラスだった。


(28年前の夜)
「マスター、先週俺の子供が産まれたんだよ。それも、女の子だぜ。めちやくちやかわいくてね。大きくなったら二人でここに飲みに来たいなと思って、実はマイグラスを買ってきたんだ」
バーテンダーは笑顔で頷いた。
「これからはこのグラスで飲むことにするので、預かってくれよ」
と言いながら、父と娘の二つのロックグラスを置いて帰っていった。


(月日は過ぎ去り、3年前の夜)
「男親って、やっぱりダメだよな。娘が結婚したんだよ」
とつぶやきながら、ひどく酔っているグラスの持ち主がいた。
その瞬間男の手からグラスが『するり』と抜け落ち、無残にもグラスは粉々に砕け散ってしまった。


(そして、半年前の夜)
「マスター、今度入院することになったんだ。私が帰ってくるまで、このひとつ残ったグラスをよろしく頼むよ」
と言ってグラスの持ち主は去っていった。


(持ち主を亡くしたグラスと四十九日の夜)
バーテンダーはグラスを丁寧に磨きながら、28年間の事を走馬灯のように思い出していた。
すると、「いいですか」と若い女の声がした。
入り口を見ると、そこには一度も見たこともない女性が立っている。
バーテンダーは少し慌てた様子で「いらっしやいませ」と言いながら、今磨いていたグラスをカウンターに置いた。
「私、このお店初めてなんですが、ひとりでもいいですか。実は父に聞いてここに来たんです」
挿入イラスト
とゆっくりと話し始めた。
バーテンダーは思わず「松本さんですか」と言ってしまった。
すると、その女性の目は、今にもこぽれ落ちそうな涙でいっぱいになっていた。
バーテンダーは心の中で「よかったなあ。おまえの新しい持ち主が来たよ」とつぶやいた。


受け継がれたグラスに乾杯